いざ、からだを探る旅へ|解剖生理をおもしろく学ぶ
解剖生理は苦手・・・という人多いですよね?そんなナースのための新連載。
今までになかった、楽しく読める解剖生理学の解説書『解剖生理をおもしろく学ぶ』より。
難解な解剖生理を会話形式でやさしく説明。身体をめぐるナスカさんの旅にお付き合いください。
増田敦子
了徳寺大学医学教育センター教授
私の研究室は、とても眺めのよい場所にあります。窓の向こうには海岸線。
お天気のよい日には、風に乗ってときおり運ばれてくる潮の香りが、心を躍らせます。
そんなある日、研究室に看護学生のナスカさんがやってきました。入学して間もないというのに、早くも解剖生理学が嫌いになりそうだ、というのです。
先生、私もう、看護師になる自信がありません
あら、どうして?
解剖生理学がちっともわからなくて。暗記しなくちゃいけないことは多いし、難しい漢字ばっかりだし……
確かに簡単じゃないわよ。でも最初からスラスラわかる人なんていないのよ
それはそうかもしれないんですけど……。何ていうか、ピンとこないんです
ピンとこない?
からだのなかなんて、実際に見たことも触ったこともないし。教科書を眺めていても、それが自分の中で起きている実感がわかないっていうか……
ナスカさんがいうものも、もっともです。皆さんも、自分たちの身体のことなのに、なんだか遠い世界のことを勉強しているような気持ちになったことはありませんか。
何を学習するにしても、なぜそれを学ぶのか、という目的や動機づけが重要で、それが学ぶ意欲にもつながります。ただ、看護師になるために解剖生理学を勉強するというのも大切な目的ですが、まだ実際の看護にどのように役立つのか、またなぜ必要なのか、ということがわからないまま勉強するから、なおさら難しくなるのではないでしょうか。
ですから、いまは無理に看護に結びつけようと思わなくてもいいのです。いずれ皆さんの多くは、看護に当たるわけですが、その対象となる患者さんも私たちと同じ人間ですから、まずは自分の身体について興味をもつことから始めてみませんか。
だって、健康な皆さんは、意識することなく息をして、おいしいものを食べ、何不自由なく歩いているので、生きていること自体になんの不便を感じることはないでしょう。でも、それって不思議だと思いませんか。
いすに座って勉強しているときは意識していない呼吸も、テニスでボールを追いかけると息が弾んで息苦しさを感じたり、心臓の鼓動を実感しますよね。ボールが飛んでいく方向を見定めて、走って打ち返すこともできます。たまに転んでけがをして、傷口から血が出ても、しばらくすると血は固まります。私たちのからだは、本当に巧妙にできています。
看護学生として勉強していく自信を失いかけた彼女に、どうやって解剖生理学のおもしろさを知ってもらえればよいのだろう、と考えた末に私はナスカさんに1つの提案をしました。
これから一緒に、身体を探る旅に出てみない?
旅、ですか
そうよ。でも、大げさな準備はいらないの。必要なのは、ほんのちょっとの想像力だけ
そう、必要なのは想像力。想像力に欠ける知識は、臨床では役に立ちません。人間の身体は、実に多くのさまざまな臓器からできていますが、それぞれの臓器の働きだけを勉強しても、1人の生活体としての人間の全体がみえてきません。まさか、患者さんのからだにメスを入れて、いちいち解剖するわけにはいきませんよね。ですから、想像力をもってからだと向き合うことは、実はとても大切なことなのです。
さあ、皆さん準備はできましたか。ほんの少しの間、ペンとノートは置いて、ナスカさんと一緒に想像の翼を広げてみてください。
[次回]
本記事は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『解剖生理をおもしろく学ぶ 』 (編著)増田敦子/2015年1月刊行/ サイオ出版