AI時代の看護はこう変わる!「生き残る職業」看護師の未来をのぞいてきた

ヒアラブル端末を装着している看護師の写真

 

この言葉を聞かない日はないというくらい、AI(人工知能)は、すさまじい勢いで私たちの日常に浸透してきています。

 

 

ついにやってきたAI時代、看護はどう変わる?

それと同時にささやかれているのが、「今ある仕事の多くはAIに奪われる」ということ。医療分野も例外ではなく、既に画像診断などでバンバン好成績を出すAIが登場していますが、その一方で、「看護師はAI時代にも生き残る職業」と言われています。

 

全人的なケアや高度なコミュニケーション能力が不可欠な看護領域。

 

AIがどんなに進化しても、人間の看護師に取って代わるなんて、確かに現実的ではなさそうですよね。

 

それなら、看護師にはAIなんて関係ない?

 

いやいや、そんなことはありません。

AIが看護師の仕事を大きく変える未来は、すぐそこまで来ています。

 

 

AIシステムを開発する看護師さんに聞きました、「何ができるの?」

「看護×AI」の未来をのぞいてみるべく訪れたのは、医療法人社団KNI(東京都八王子市)。

 

KNIでは、北原国際病院や北原リハビリテーション病院をはじめとする国内拠点のほか、2016年にはカンボジアにも新病院をオープン。最新技術を活用して医療の質の向上と効率化を図る「デジタルホスピタル」の構想を掲げ、多ジャンルの企業とのコラボにも積極的です。

 

そのKNIで、コラボ企業のNECとともに「現場目線のAIシステム」開発に携わっている看護師の森口真由美さんにお話を聞きました。

 

看護師の森口さんの写真

看護科統括の森口真由美さん。「AIに興味のある看護師さん、大歓迎です!」

 

森口さん発案のAIシステムはいくつかあるそうなんですが、注目は「ヒアラブル端末を使った病棟業務支援システム」です。

 

ヒアラブル端末とは、に装着する無線イヤホン型の端末のこと。この端末を通して、AIが音声で病棟業務をアシストしてくれる、という画期的なシステムなのだそう。

 

ヒアラブル端末の写真

ヒアラブル端末を通して、AIが看護師をアシスト

 

ナースがしゃべれば記録が残せる!

例えば、「入院患者に熱がある」という場面を想定してみます。

 

患者さんの体温を測定したら、看護師はこんなふうに言いますよね。

 

「◯◯さん、熱が38度2分ありますねー」

 

すると、この言葉にヒアラブル端末のAIが反応。「*時*分、体温38.2度」と看護記録に自動入力される仕組みです。特別な操作も命令もない、患者さんと普通に会話しただけで記録が残せてしまいます

 

なにそれ、めちゃくちゃ便利。

 

AIシステムを活用した病院のベッドサイドのイメージ

患者さんとの会話で看護記録ができちゃう!?

 

さらに、この患者さんに対して解熱に関するアセスメントをしました。

 

(ん? ◯◯さんは38.0度以上でロキソニンだっけ、38.5度以上だっけ…?)

 

細かい指示がちょっと思い出せません。

 

(ナースステーションに戻って確認してこなくちゃ。…ああああああ、この病室、ステーションから一番遠いじゃん)

 

そんなとき、AIがそっと耳打ちしてくれます。

 

「◯◯さんには、発熱38.0度以上でロキソニンの処方指示が出ています」

 

…ありがとう、AI!!

 

ということで、患者さんに「熱を下げるロキソニンっていうお薬が出たから飲みましょうね」と話せば、それもまた「△時△分、ロキソニン1錠内服」と自動入力されて――。

 

記録を作成する業務負担が劇的に軽くなります。

 

森口さんいわく、

ベテランの看護師がそばで手伝ってくれたり、アドバイスしてくれたりするイメージ」。

 

なるほど、優しい先輩ナースの妖精が耳の中に住んでいるみたいな感覚ってことですね!

 

 

AIがNIHSS、FIMの採点をガイドしてくれる

法人の本院・北原国際病院では、デモ機による実証が進んでいます。活用場面の一つが、救急現場でのNIHSS脳卒中重症度評価スケール、National Institutes of Health Stroke Scale)の評価。

 

  • 呼びかけに反応するか、確認してください
  • 患者さんにお名前を聞いてください
  • 『今は何月ですか』と質問してみてください
  • いくつ答えられましたか?

 

NIHSSの評価項目に沿って、こんな指示や質問をヒアラブル端末のAIが投げかけてきます。

 

看護師はAIのガイドに応えるように、患者さんの状態をチェックしたり、返事をしたりしていけば、評価点数が記録できてしまうというわけです。

 

ケアワーカーが入浴介助をするときに行うFIM(機能的自立度評価)の採点も、同じ仕組みで実証を進めています。

 

北原リハビリテーション病院の写真

2018年1月開院の北原リハビリテーション病院・新棟。AIを活用したシステムを多く導入する「デジタルホスピタル」だ

 

看護必要度の評価にもう悩まされない!

…と、ここまで聞けば、この質問をせずにはいられません。

 

「重症度、医療・看護必要度」(看護必要度)の評価も、AIで楽になったりしませんか?

 

「そうなんです!そのアイデアは、すぐに上がりました!

 

例えば、食事介助をしているときの患者さんとの会話から、AIが関連キーワードを拾って、B項目『食事摂取』の点数を換算・入力してくれればいいなと構想しています」

 

…神!!

 

看護必要度の評価は、今の看護現場にとって大きな負担になっています。AIがアシストしてくれれば、かなりの労力と時間を効率化できそうです。

 

「看護必要度のAI対応はマストですね! 究極的には『1日が終わったときには、もう看護必要度の入力が済んでいる』という状態を目指したいです」

 

「申し送りであれこれ共有」…それ、AIがあれば不要かも

デジタルホスピタルのポスターが展示された病院内の写真

医療法人社団KNIが目指すのは、効率的で質の高い「デジタルホスピタル」

 

ただ、

「Hey、Siri! ◯◯までの行き方、教えて」

「OK、Google! リラックスできる音楽かけて」

のような一般的なコマンドと違って、医療用語は独特で複雑。

 

「梗塞」のつもりが「拘束」になってしまったり、「嘔吐」が「応答」と判断されてしまったり、「血圧130の60」にきちんと「mmHg」まで付けるのが難しかったり――

 

現在はAIにどんどん学習させ、性能を進化させている段階。それでも、一部システムについては2018年度内の本格運用を見込んでいるそう。何年も先の遠い未来の話ではないことに改めて驚かされます。

 

これらシステムが完成すれば、「事実を確認するだけの申し送りは必要なくなる」と、森口さんは考えています。

 

勤務交代のときにヒアラブル端末を返す・受け取るだけで、申し送りは完了できる血圧や熱が上がったときの約束指示、水分出納バランスがプラスになったときの対処履歴など、必要なときに必要な情報を引っ張り出せれば問題ありません」

 

「もっと大事なのはニュアンスですよね。『この患者さんは、こういう点に注意してほしい』とか、『◯◯さん、昨夜はこんなことがあって』とか。AIで短縮できる申し送りの時間をカンファレンスに当てられれば、より患者さんに寄り添った看護ができると思います」

 

 

不穏行動は予知して防ぐ!退院調整もスムーズに

医療法人社団KNIでは、このほかにもAIを活用したシステムが動き始めています。

 

その一つが、入院患者の不穏行動の予兆をAIが検知するシステム。

 

病院の廊下のイメージ写真

(写真はイメージです)

 

神経外科を得意とする北原国際病院には、脳血管疾患の救急搬送が多いこともあって、入院患者の約3割に不穏行動が発生。

 

暴れたり、点滴を抜いたりといった行動は症状を悪化させ、不穏のあった患者さんは通常よりも約19日間、入院期間が延びるという課題がありました。

 

看護師にとっても不穏行動への対応、特に人手の少ない夜間の対応は負担が大きいもの。経験の浅い若いスタッフだけでは対応が難しいため、シフトの調整にも苦労します。

 

「救急の現場を20年以上見ていると、『この人、不穏になりそうだな』という感覚はなんとなくあって、けっこう当たったりするものなんです。この感じをAIで具現化できないかと、NECさんに技術的な解決をお願いしました」(森口さん)

 

そこで、患者ごとに異なる不穏行動の膨大なデータを解析し、自律神経のバランスが崩れる予兆パターンを発見。実証実験では、71%の精度で不穏行動が起こる約40分前に検知することに成功しました。

 

もう一つ、実用化を目前にしているのが退院・転院調整システムです。

 

この患者さんの退院・転院先で最も可能性が高いのは、自宅か、回復期病院か、療養病院か――入院した翌日、電子カルテに記載された病態や家族構成などを基にAIが予測するというものです。

 

これも84%の高精度で成功。早い段階から退院・転院先との調整をスタートできるため、入院期間の短縮や早期の自宅復帰が期待できます。

 

チーム医療のメンバーにAIが加わる日

ヒアラブル端末でAIシステムを活用するリハビリスタッフの写真

KNIでは看護師だけでなく、リハビリスタッフやケアワーカーもAIの活用を予定している

 

AIは、看護の平均点を底上げするようなものだと思います。AIのアシストがあることで経験の浅いスタッフも、ベテランが提供するようなケアに近づける。看護の質を高い水準で安定させられると思います」と森口さん。

 

さらには、経験に頼ることのリスクも最小化できると指摘します。

 

「人間には感情がありますし、疲れると能率も下がってミスもします。AIを使って回避できるリスクは回避して、人間の看護師は人間でなければできないことをするという時代になっていくのかなと思います」

 

それは「AIが仕事を奪う」のとは、ちょっと違います。

 

「看護師って忙しい。『患者さんのために、もっとこうしたいけど、忙しくてできない』ということもありますよね。診療と療養の両方の視点を持ち、患者さんの一番身近にいるのが私たち看護師。AIをうまく活用することで、看護師ならではの役割にもっと集中できればいいなと思います」

 

「看護×AI」の未来は、チーム医療のメンバーに、できるアシスタント「AIさん」が加わるようなイメージなのかもしれません。

 

看護roo!編集部 烏美紀子(@karasumikiko

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