国際ボランティア看護師に聞く―ミャンマーの医療現場【前編】

皆さんは、海外で働くということに興味がありますか?

今回お話を聞いたのは、ボランティアとして海外で活動している看護師さん。2013年4月に国際看護長期研修活動を終え、海外から帰国されたばかりの栗木幸代さんに、海外での活動を選んだ理由や現地の仕事などをお聞きしました。

 

活動地ミャンマーで患者さんと一緒に

 

国際医療への参加を決めた、たった一行の言葉

栗木さんは「特定非営利活動法人ジャパンハート」の海外医療事業を通じ、ミャンマーでの医療活動に参加しました。

 

海外での医療活動に興味をきっかけは、ほんの些細なことでした。

 

「きっかけは、たまたまテレビのドキュメンタリー番組で、ジャパンハートで活動する看護師を見たことです。

その頃、私は看護師として3年目を迎え、ひと通り仕事も任せてもらえるようになった時期でした。

ちょうど、このまま同じ病院、同じ診療科で1つのことを突き詰めるのもいいけど、ほかの病院や診療科はどういうことをしているのか? ということにも興味を持ちはじめていたので、海外での活動にも興味がわいたんです」

 

テレビを見た直後にパソコンでジャパンハートのことを調べ、活動内容などを見ていると、看護師の言葉として、こんな一言が記載されていたそうです。

 

 “せっかく看護師になったのだから、1年や2年くらいは国際医療をしてみたいと思った”

 

「きっと単純な性格なんでしょうね(笑)。

そもそも海外ボランティア自体にも興味もなかったですし、国際医療というとどこか敷居が高く、自分が進む道ではないと思い込んでいました。

でもこの言葉を読んだ時、『あ、自分も海外で活動していいんだ』と素直に思いました」

 

ボランティアではなく、研修として参加する

ジャパンハートでは海外で長期間参加する看護師の活動を、“ボランティア”ではなく“研修”という言葉を使っています。同団体の研修事業リーダーを務める武内さんにその意味をお聞きしてみました。

 

「ジャパンハートでは3日から1週間程度の期間でも参加できる、国際医療短期ボランティアも行っています。こちらは参加される方のスキルや経験に合わせて参加できる内容なので、今お持ちのスキルでも十分貢献できます。

 

対して“研修”は、ボランティアと言うよりは自己成長の場という意味合いが強いんです。

十分ではない人員や物資、そして限られた設備の中で看護活動を行うため、“できること”に応じて担当を固定してしまうと、病院がうまく回りません。一人ひとりが、今、自分は何をすべきかを考え行動する必要があるのです。

 

ガーゼ一つとっても、吸水性など日本のものとは質が異なり、また、とても貴重な資材です。傷の処置の方法やテープの貼り方など最小限で効果的なやり方を考えます。

そのため、短期ボランティアのように、自分の技術や知識を"提供しに行く"というよりは、自分の学びのための活動であるため、"研修"と位置づけているのです」

 

ミャンマーへの渡航費や現地での生活費はすべて参加者の自費、そして無給で活動するという点ではいわゆる"ボランティア"と言えますが、根底にある目的には大きな違いがあるようです。

 

武内さん(左)も大学病院の看護師を経て、ジャパンハートの研修に参加した経歴がある

 

そのため、研修に参加する看護師も「自分が学ぶため」という意識が高いそう。その意識が現地の方々に本当に役立つサポートにつながる、という循環を生んでいるのです。

 

また、ジャパンハートでは海外だけでなく、国内のへき地・離島への支援も行っており、ミャンマーでの活動が6カ月、国内での活動が6カ月、計1年間の研修が1つのプログラムになっています。そのプログラムも栗木さんには合っていたようです。

 

「もともとの目的であった、国内のほかの病院を見るという経験もできるし、単純に一石二鳥だなと思いました。それも参加を決めた1つの理由です」

 

看護師1人ひとりの判断力が問われる現場

ジャパンハートでは、ヤンゴンから飛行機で約1時間、そこからさらに車で約40分のところにある、ワチェ村という場所で、地元のお坊さんが運営する慈善病院を借りて医療活動を行っています。栗木さんもそこで活動をしていました。

観光客が来るでもなく、交通の便も悪い地域です。

 

ジャパンハートが活動する病院

 

日本では恵まれた環境で医療活動ができますが、ミャンマーではそうはいきません。物資的な不足、器材の不足、人員の不足など、あらゆる面で日本とは環境が異なります。

そんな環境の中、栗木さんがまず感じた日本との違いは、患者さんとの関わり方だそうです。

 

「患者さんの担当看護師が決まっていて、入院から退院まで一連の流れを常に担当が責任を持つのがまず大きな違いです。日本では担当はあっても、勤務によっては患者さんと密に関われないことが続くこともありました。

 

また、傷の処置は基本ドクターが行いますが、ミャンマーでは看護師が行います。毎日毎日、受け持ちの患者さんに会って、傷の具合をみて観察し、最後は退院のタイミングを判断していくので、患者さんとの関わり方の濃さはまったく違います」

 

担当の患者さんと写る栗木さん。ミャンマーでは患者さんの家族も病院に寝泊まりするのが常識

 

患者さんも自分の担当看護師がわかるため、ガーゼが外れたときなど、まわりに看護師がたくさんいるにも関わらず、担当の看護師を探して歩きまわることもあるそう。頼りにされている感覚が強く、その分、全力で応えたくなるようです。

 

また、細かな仕事の面でも当然ながら日本の環境とは違うと栗木さんは言います。少ない人材で安全に患者さんを看るべく、現地では勤務部署をあえて固定せず、外来、手術、入院病棟をフレキシブルに回ります。そして備品管理なども看護師自身がやらなければいけません。

 

「今日は手術室担当だけど、次の日は入院病棟。それらをやりつつ外来サポートも行うなど、部署にこだわらず、柔軟に動くことを求められます。また、手術で使用する器械の滅菌・消毒も看護師が行います。器械もたくさんあるわけではないので、何件かあとの手術に使えるようにどんどん滅菌・消毒を行います。同時に、点滴やガーゼなどの準備も行うので、次に手術ではどんな器械や点滴が必要かを把握し、先のことを考えた準備が必要になります」

 

在庫管理も看護師が行うため、今後の手術内容と件数把握、それらに何が必要で、今何が足りないかまで考えていたとか。そして日本のように物が十分ある環境ではないため、いかに効率よく、最小限の物で安全に医療を行うかが大切だとも言います。

 

「担当部署を決めず、備品管理などの裏方の仕事も行うことで、現状とその先のことを考えられるようになりました。例えば手術後の患者さんを入院病棟に引き渡す時、自分が入院病棟をわかっているからこそ、必要な情報を的確に申し送ることができます。広い視点と判断力はすごく養えたと実感しています」

 

"できない"もどかしさと、"できた"ことへの喜び

>とはいえ、最初から現地での仕事にスムーズに入れたわけではありません。

 

「日本では外科病棟勤務でしたので、手術室に入ること自体がはじめてでした。もちろん器械も触ったこともなく、すべてがゼロからのスタートに近い状況です。そもそも日本での働き方とは全然違うため、全体の流れをつかむのにもとても苦労しました」

 

そんな中、どのようにして壁を乗り越えたか聞いてみると、患者さんからの言葉だったと栗木さんは言います。

 

「手術で言えば器械出し、外回りなど、少しずつ大切な役割を覚え、できないことが一つ、また一つとできるようになることはすごくやりがいでした。そうして自分が勉強してきたことが役立ち、患者さんが『ありがとう』と言って退院していくと、すごく心が救われます。それがモチベーションにつながり、また次も頑張ろうっていう気持ちにはなりました」

 

宿舎では手術介助の練習など、成長するための自己学習も日課

 

物資面でも設備面でも環境が整えられ、自分のスキルを提供するために行くボランティア活動とは違い、学ぶことの多さを感じたという栗木さん。その分、しっかりとした目標がなければ現地では活動できないのでしょう。

次回はさらに具体的な仕事内容やミャンマーでの生活について伺います。

 

 


■取材協力

特定非営利活動法人 ジャパンハート

2004年に代表の吉岡秀人医師が設立した国際医療ボランティア団体。今回紹介したミャンマーへの医療支援は国際看護長期研修の一つで、国内のへき地離島への研修も含め1年間のプログラムとなっている。ほかにもカンボジア、ラオスでの医療支援や医療者育成支援など、さまざまな支援活動を行っている。医療者が参加できる活動として、子どもや貧しい人々のために巡回診療や手術を行う、3日~7日程度の休暇で参加が可能な国際医療短期ボランティアなどがある。

 

ジャパンハート公式サイト

国際看護長期研修専用サイト

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