内分泌疾患と皮膚|全身性疾患と皮膚⑧
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は内分泌疾患と皮膚について解説します。
秦 まき
沼津市立病院皮膚科
内分泌疾患と皮膚
ホルモンは下垂体、甲状腺、副甲状腺、副腎、性腺、膵臓などで産生され、おもに血液を介して他の内臓の機能を調節する物質である。これらのホルモンが過剰に分泌されたり不足すると、さまざまな症状が起こる(表1)。
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下垂体
下垂体機能亢進症:先端巨大症
骨端線閉鎖後に、下垂体から成長ホルモンが年余にわたり過剰分泌されることによって生じる。原因の99%以上は下垂体に発生する成長ホルモン産生腺腫による。特徴的な顔貌を示し、下顎、眉弓部、胸骨の突出、鼻・口唇の肥大、歯列間隙の拡大、巨大舌などの変化を示し、声も低くなる。
また皮膚は粗造で肥厚し、色素沈着がみられる。四肢末端は肥大し、足底部の軟部組織が肥厚する。発汗、異臭、剛毛が目立つようになる。
下垂体機能低下症
視床下部あるいは下垂体の障害により、副腎皮質刺激ホルモン、甲状腺刺激ホルモン、成長ホルモン、プロラクチン、性腺刺激ホルモンの分泌量が低下する。障害されるホルモンの種類や組み合わせにより、さまざまな症状を生じる。
下垂体が障害される病因は、腫瘍、循環障害、炎症、肉芽腫性、自己免疫性、外傷性、先天性などさまざまである。甲状腺刺激ホルモンや性腺刺激ホルモンが減少すると発汗減少、皮膚乾燥、生毛脱落などが起こる。
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甲状腺
甲状腺機能亢進症、バセドウ(Basedow)病
原因を問わず、生体内に甲状腺ホルモンが過剰に分泌されると多汗、皮膚湿潤、皮膚の潮紅などがみられる。下腿、とくに足背に隆起性の結節あるいはびまん性の浮腫がみられることがある(脛骨前部粘液水腫)。
甲状腺機能低下症
甲状腺ホルモンが低下すると無気力、易疲労感、眼瞼浮腫、脱毛、発汗低下、皮膚乾燥、爪の菲薄化、便秘、月経不順などが生じる。真皮内にムチンと水分が貯留するため、下腿に指圧痕を残さない浮腫をきたすことがある(汎発性粘液水腫)。
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副甲状腺
副甲状腺ホルモン分泌低下をきたす。原因は多岐にわたり、皮膚では知覚異常、皮膚の乾燥、瘙痒感を生じる。
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副腎皮質
副腎皮質機能亢進症、クッシング(Cushing)症候群
副腎皮質からのグルココルチコイド(コルチゾール)の慢性的な分泌過剰により引き起こされる。
皮膚症状として皮膚線条、多毛、ざ瘡様発疹、皮下出血斑、皮膚の菲薄化がみられる。
そのほか満月様顔貌、赤ら顔、水牛様肩(buffalo hump)、中心性肥満、筋力低下を認める。合併症として高血圧、糖尿病、骨粗鬆症を生じる。
副腎皮質機能低下症、アジソン(Addison)病
コルチゾール、アルドステロン、副腎アンドロゲンの慢性的な欠乏を呈する。ACTH高値による色素沈着が診断のきっかけになることが多い。色素沈着は皮膚、肘・膝などの関節部、爪床、口腔内にみられる。
全身症状として易疲労感、体重減少、食欲不振、悪心・嘔吐、無気力・不安・うつなどの精神症状、筋肉や関節のこわばりがみられる。
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膵臓
グルカゴノーマ症候群
膵内分泌腫瘍の1つで、皮膚に壊死性遊走性紅斑をきたす。低アミノ酸血症が関連しているとされ、出現頻度は50~70%程度である。紅斑が鼠径、会陰部の間擦部位に初発し、体幹、四肢、顔面など末梢の機械的刺激を受けやすい部位に広がる。
瘙痒感を伴い、再発・融合性で、紅斑のほかびらん、水疱、痂皮など多彩な皮疹を呈する。口角炎、舌炎、外陰腟炎を合併することもある。皮膚症状のほか体重減少、貧血、血栓塞栓症、精神症状などがみられる。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂