天疱瘡|水疱症①
『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は天疱瘡について解説します。
立石千晴
大阪公立大学大学院医学研究科皮膚病態学
鶴田大輔
大阪公立大学大学院医学研究科皮膚病態学
Minimum Essentials
1上皮細胞を接着させる分子に対する自己抗体が生じ、それにより、皮膚や粘膜に水疱やびらんを生じる自己免疫性水疱症である。
2全身の皮膚や粘膜に、破れやすい水疱やびらんが多発する。
3治療は、ステロイド内服療法および外用療法である。
4慢性に経過するため、ステロイド薬を長期内服する。副作用に注意が必要である。
天疱瘡とは
定義・概念
上皮(皮膚や粘膜)細胞を接着させる分子に対する自己抗体によって、全身の皮膚や粘膜に水疱やびらんを生じる自己免疫性水疱症。臨床症状的な分類では、尋常性天疱瘡、落葉状天疱瘡が多い。
原因・病態
皮膚の表皮細胞(ケラチノサイト)または粘膜上皮の細胞同士を接着させるデスモグレインという蛋白に対する自己抗体(自分自身を攻撃してしまう抗体)がつくられ、水疱やびらんが生じる。
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診断へのアプローチ
臨床症状・臨床所見
尋常性天疱瘡
口腔を中心とした粘膜および皮膚に痛みを伴う治りにくい水疱が生じ、容易につぶれてびらんとなる(図1)。
口腔内病変が広範囲になると、食事がとれなくなる。
粘膜症状が主体となる粘膜優位型と、全身の皮膚にも痛みを伴う水疱・びらんが広がる粘膜皮膚型に分けられる。
落葉状天疱瘡
頭、顔面、胸、背中などに落屑を伴う紅斑やびらんが生じる(図2)。
重症例では全身の皮膚に拡大することもあるが、粘膜症状はみられない。
検査
病変部の生検病理組織では、上皮の細胞間接着が失われ水疱を形成している。蛍光抗体法では、上皮細胞間に自己抗体が沈着している。
患者血液中に抗デスモグレイン 1、3抗体を認める。抗デスモグレイン 1、3抗体価の測定は病型診断だけでなく、病勢のモニタリングにも有用である。
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治療ならびに看護の役割
治療
おもな治療法
ステロイド内服療法が第一選択になる。DDS(レクチゾール®)、免疫抑制薬、血漿交換療法、免疫グロブリン大量静注療法などを併用することもある。
合併症
長期に大量のステロイド薬を内服するため、免疫低下による感染症や精神症状、糖尿病、骨粗鬆症などステロイド薬の副作用に注意が必要である。
治療経過・期間の見通しと予後
長期的にステロイド薬内服は必要である。症状軽快は期待できるが、ステロイド薬の副作用による合併症が問題になる。とくに感染症に注意が必要である。
看護の役割
治療における看護
・機械的刺激部に水疱ができる〔ニコルスキー(Nikolsky)現象〕ので、テープは直接皮膚に貼らない。ガーゼ固定は、ガーゼを全周性に巻くか包帯などで固定する。また、包帯をきつく巻いても水疱ができるため、やさしく巻く。
・軟膏は、ガーゼに塗布したものを水疱・びらんに当てるようにする。
・シャワーで保清する。水疱・びらんに感染が認められた場合は、毎日シャワーすることが望ましい。
・ガーゼを剝がすときは、水やお湯でガーゼに水分を含ませる。生理食塩水のほうが、水道水より痛みが少ないことがある。
・口腔内に水疱・びらんがある場合は、刺激物、かたいもの、熱いもの、冷たいものを避ける。
フォローアップ
・ステロイド薬内服は長期間必要となる。内服中断すると症状が悪化したり、急性副腎機能不全になり危険な状態に陥る可能性があるので、内服薬を処方どおり服薬し通院することが大切である。
・ステロイド糖尿病が危惧されるため、食事量に注意する。
・感染症を疑う発熱や咳嗽があれば、早めに医療機関を受診するように指導する。
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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。
[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂