深在性真菌症|真菌症②

『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』(南江堂)より転載。
今回は深在性真菌症について解説します。

 

鈴木陽子
静岡市立静岡病院皮膚科

 

 

Minimum Essentials

1皮膚の深在性真菌症では、カビ(真菌)が真皮・皮下組織内に寄生・増殖する。

2スポロトリコーシスとクロモブラストミコーシスが代表的疾患である。植物や土壌などに生息する菌が小外傷から皮膚の深部に侵入し、慢性肉芽腫性病変を形成する。

3病理組織検査で生体組織内の菌を確認し、真菌培養により原因菌を同定して診断する。

4治療は抗真菌薬の全身投与だが、温熱療法も併用する。スポロトリコーシスではヨードカリ内服、クロモブラストミコーシスでは外科的切除が第一選択になる。

 

深在性真菌症とは

定義・概念

内臓、中枢神経系、骨、関節、筋肉、皮下組織など身体内部の真菌感染症。皮膚では病原真菌が真皮・皮下組織内に寄生し増殖する。

 

原因・病態

皮膚での代表的疾患であるスポロトリコーシスとクロモブラストミコーシスでは、自然界の植物や土壌などに生息する原因真菌が小さな傷口から皮膚深部に侵入して感染する。

 

1〜2週から数ヵ月の潜伏期間を経て、増殖して表皮にまで及ぶと病変が明瞭になる。原因真菌はスポロトリコーシスではスポロトリックス・シェンキイ(Sporothrix schenckii)であり(図1)、クロモブラストミコーシスでは黒色真菌、なかでもフォンセカエア(Fonsecaea)属が多い(図2)。

 

図1 スポロトリコーシスの原因菌

膿汁の真菌培養で分離されたスポロトリックス・シェンキイ。

スポロトリコーシスの原因菌

 

図2 クロモブラストミコーシスの原因菌

痂皮の真菌培養で分離された黒色真菌フォンセカエア・モノフォラ。

クロモブラストミコーシスの原因菌

 

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診断へのアプローチ

臨床症状・臨床所見

スポロトリコーシス(図3

紅色丘疹が次第に結節、潰瘍病変となり、慢性に経過する。病変が菌の侵入部位にとどまる固定型と、リンパ管に沿って数が増えるリンパ管型の病型がある。土に接する機会の多い農業従事者の上肢や、小児の顔面に好発する。

 

図3 スポロトリコーシス

a:固定型。抗菌薬が効かない、痛みのない慢性の潰瘍。
b:リンパ管型。リンパ管に沿って飛び石状に結節が増える。

スポロトリコーシス

 

クロモブラストミコーシス(図4

いぼ状の結節性病変や、辺縁が堤防状に隆起した平らな病変が、長い年月をかけてゆっくりと拡大する。落屑痂皮を伴うが、自覚症状はほとんどない。外傷を受けやすい四肢・顔面に多いが、臀部など体幹にも生じる。

 

図4 クロモブラストミコーシス

発症から35年の長期経過病変。中心部は瘢痕化し、外側に向かって環状に拡大している。

クロモブラストミコーシス

 

ヘオヒフォミコーシス(黒色菌糸症)(図5

黒色真菌感染症のなかには、リンパ腫など血液疾患や免疫抑制薬の使用により免疫能が低下している患者の皮膚に、浴室・台所などの水回りや古い木材などについている黒カビが入り込んで発症する病型がある。皮下の膿瘍や囊腫として発症することが多い。

近年、免疫抑制患者の増加とともに多くみられるようになった。

 

図5 ヘオヒフォミコーシス(黒色菌糸症)

拇指の黒色真菌による膿瘍性病変。患者は関節リウマチにて免疫抑制薬使用し、肺癌も合併している。

ヘオヒフォミコーシス(黒色菌糸症)

 

真菌検査(「真菌検査」参照)

真皮内の菌は皮膚表面に排出され、鱗屑痂皮や滲出液の中にも含まれているので、直接検鏡でそれを確認する。

 

スポロトリコーシスでは菌が小さくてKOH法では見えないが、滲出液や膿汁をPAS染色すると小さな胞子が見つかる。クロモブラストミコーシスでは、KOH法で褐色大型の特徴的な胞子(スクレロティックセル、sclerotic cell)が見つかればそれだけで診断できる。

 

深在性真菌症では通常生検を行い、病理組織検査で真皮内や皮下の菌を確認する。また、鱗屑や生検組織などを真菌培養し、原因菌種の同定と薬剤感受性検査を行う。

 

 

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治療ならびに看護の役割

治療

おもな治療法

スポロトリコーシスではヨウ化カリウム(KI)が第一選択薬であり、抗真菌薬内服も選択される。局所温熱療法を併用する。

 

クロモブラストミコーシスでは可能なら外科的切除が第一選択で、抗真菌薬内服を併用する。局所温熱療法や凍結療法も補助的に用いる。重症、難治の場合は、注射薬も含め複数の薬剤を組み合わせるなどの工夫が必要となる。

 

ヘオヒフォミコーシスでは、原疾患の治療や免疫抑制薬の減量などの対応が可能であれば排膿だけで治癒することも多いが、対応不可能な場合は致死性となりうる。

 

合併症とその治療法

クロモブラストミコーシスは、ゆっくりと進行し自覚症状もほとんどないため、長年放置され、著明な瘢痕や変形拘縮をきたす例もある。その場合は抗真菌薬による治療や病変の切除とともに、形成外科、整形外科的治療が必要となる。

 

治療経過・期間の見通しと予後

スポロトリコーシスは、免疫不全などがなければ予後は良い。病巣瘢痕化後、さらに1ヵ月治療を継続し、その後1年間経過観察する。

 

クロモブラストミコーシスは切除できないと難治で再発が多く、慢性に経過する。10年以上の経過をとる例も珍しくない。

 

看護の役割

・治療と経過観察が長期になることを説明する。
・局所温熱療法は使い捨てカイロで1日合計2時間以上、断続的に患部を温めるなど、低温熱傷を起こさないように具体的方法を説明する。毎日の施行時間も確認する。
 

 

 

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本連載は株式会社南江堂の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『皮膚科エキスパートナーシング 改訂第2版』 編集/瀧川雅浩ほか/2018年4月刊行/ 南江堂

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