育児期に活用できる母子保健制度
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は育児期に活用できる母子保健制度について解説します。
花原恭子
聖泉大学看護学部講師
育児のための両立支援制度
育児・介護休業法(育児休業・介護休業等育児又は家族介護を行う労働者の福祉に関する法律)
①育児休業制度(第5条)
原則として子が1歳に達するまでの間、労働者が事業主に申し出ることによって育児休業を取得できる。
2017年10月より、保育所に入所できない等の場合に、1歳6か月から最長2歳に延期された。また2017年1月に有期契約労働者の取得要件が、子どもが1歳になった後に雇用契約があるかどうかわからない場合でも、育児休業が取得できるという要件が緩和された。
対象となる「子」の範囲
法律上の親子関係がある子(養子を含む)ほか、特別養子縁組のための試験的な養育期間中の子、養子縁組里親に委託されている子、養育里親に委託されている子をいう。
育児休業期間の保険料免除
育児休業中の健康保険、厚生年金保険の保険料が全額免除される制度。事業主を経由して申請する。「1歳から3歳に達するまでの子を養育するための育児休業の制度に準ずる措置による休業」も対象となり、事業主が承認すれば、3年間の育児休業が取得可能となる場合もある。
育児休業取得率
2017年の厚生労働省の調査(速報)では、女性82.2%(平成29年度調査83.2 %) より1.0%下降した。男性は、6.16%(前年度5.14%)より1.02%上昇した4)。
②短時間勤務制度(所定労働時間の短縮措置)(第23条)
3歳未満の子を養育する労働者は、希望すれば短時間勤務を利用できる。
短時間勤務とは
1日の所定労働時間を原則として6時間(5時間45分から6時間まで)。
③所定外労働の免除(第16条の8)
3歳未満の子を養育する労働者が申し出た場合は、所定労働時間を超えて労働させてはならない。
④子の看護休暇(第16条の2および3)
小学校就学前までの子を養育する労働者が申し出た場合は、子1人であれば5日まで、2人以上であれば年に10日まで、1日の所定労働時間が4時間以下でも半日単位で取得できるようになったほか、1時間単位で休暇を取得することができる。子の看護休暇は、病気やけがをした子の看護を行うためや、子に予防接種または健康診断を受けさせるために利用することが可能である。
⑤時間外労働の制限(第17条)
小学校就学前までの子を養育する労働者が申し出た場合は、1か月24時間、1年150時間を超える時間外労働をさせてはならない。
⑥深夜業の制限(第19条)
小学校就学前までの子を養育する労働者が申し出た場合は、その従業員を深夜(午後10時から午前5時まで)において労働させてはならない。
⑦その他の両立支援措置(努力義務)(第24条第1項)
事業主は、小学校就学前までの子を養育する労働者について、フレックスタイム制度、時差出勤の制度、事業所内保育施設の設置・運営その他これに準ずる便宜の供与、のいずれかの措置を講ずるように努めなければならない。
⑧不利益な取り扱いの禁止(第10条、第16条の4および9、第18条の2、第20条の2、第23条の2)
事業主は、育児休業など上記の①~⑦までの制度の申出や取得を理由として、解雇などの不利益な取り扱いをしてはならない。
⑨育児休業等に関するハラスメントの防止措置(第25条)
事業主は、育児休業など上記の①~⑦までの制度又は措置の利用に関する言動により、労働者の就業環境が害されることがないよう、労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。
⑩労働者の配置に関する配慮(第26条)
事業主は、労働者を転勤させようとする場合は、その育児の状況に配慮しなければならない。
⑪再雇用特別措置(第27条)
事業主は、妊娠、出産もしくは育児を理由として退職した者に対して、必要に応じて、再雇用特別措置その他これに準ずる措置を実施するよう努力しなければならない。
目次に戻る
育児時間の取得(労働基準法第67条)
1歳未満の子を育てている労働者は、休憩時間のほか、1日2回各々少なくとも30分、その生児を育てるための時間を請求することができる。
目次に戻る
健康診査(母子保健法第12・13条)
市町村は、児の疾病・障害の予防・早期発見などを目的に、健康診査を行わなければならない。対象となるのは、乳児、1歳6か月児、3歳児である。
目次に戻る
育児学級・子育て教室(母子保健法第9条)
都道府県および市町村は、乳児期の健康の保持増進のため、育児に関し指導及び助言を行う。
目次に戻る
新生児訪問指導(母子保健法第11条)
市町村長は、新生児に育児上必要と判断した場合、医師・保健師・助産師などにより新生児の保護者を訪問し、指導を行う。
目次に戻る
低出生体重児の訪問指導(母子保健法第19条第1項)
市町村長は、療養上必要があると認めたときは、低出生体重児について医師・保健師・助産師などにより訪問指導を行う。
目次に戻る
養育医療(母子保健法第20条第1項)
市町村は、養育のため病院または診療所への入院が必要な低出生体重児に対して養育に必要な医療、または養育に必要な費用を負担する。
出生児体重が2,000g以下の場合や、けいれんや運動異常、強い黄疸などの症状がある乳児(0歳児)が対象となり、医師が認めた場合、指定の医療機関に入院すると医療の給付が受けられる。
目次に戻る
乳幼児医療費助成制度
市区町村が、乳幼児が健康保険証を使って病院などにかかったときの費用の一部または全額を公費で助成する制度。一般的に病院の窓口で専用の乳幼児医療費を提示することで助成を受けることができる。助成内容は、通院・入院でかかった医療費である。助成の内容や受ける方法が市区町村で異なる。
対象は、健康保険加入の者で、市区町村により2歳~18歳と差がある。
目次に戻る
児童手当
子ども・子育て支援の適切な実施をはかるため、父母その他の保護者が子育てについての第一義的責任を有するという基本的な考えのもとに、家族などの生活の安定に寄与すること、次代の社会を担う児童の健やかな成長に資することを目的に、子どもを養育している者に支給される手当のことである。
①支給対象
・中学校終了までの国内に住所を有する児童
②受給資格者
・監護生計要件を満たす父母等
・児童が施設に入所している場合は施設の設置者
③支給額
・扶養親族等の数によって所得制限額の基準が変わる。
[所得制限額未満である者]
3歳未満:月額1万5千円
3歳以上小学校修了前:(第1子、第2子):月額1万円
3歳以上小学校修了前:(第3子以降):月額1万5千円
中学生:月額1万円
[所得制限額以上である者]
特例給付として月額5千円
目次に戻る
引用文献
1)厚生労働省:妊娠等を理由とする不利益取り扱いに関する調査の概要、2019年12月5日検索
2)尾保手正成:全ての座席のシートベルトの着用とチャイルドシートの使用の徹底、人と車、54(8):4~ 12、2018
3)厚生労働省保険局:高額療養費制度を利用される皆様へ、2019年12月27日検索
4)厚生労働省:平成30年度雇用均等基本調査(速報)、2019年11月21日検索
参考文献
1)厚生労働省:母子保健法、2018年12月26日検索
2)厚生労働省:働きながら安心して妊娠・出産を迎えるために、より改変
3)厚生労働省:育児・介護休業法について、2018年12月26日検索
4)厚生労働省:働く女性の母性健康管理措置、母性保護規定について、2018年12月26日検索
5)内閣府:児童手当制度の概要、2018年12月26日検索
本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版