呼吸障害|胎外生活不適応状態へのケア③
『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は胎児期の呼吸障害ケアについて解説します。
立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授
岡山久代
筑波大学医学医療系教授
呼吸障害
肺呼吸への移行のメカニズム
胎児期には胎盤を介してガス交換が行われ、肺胞は肺胞液で満たされている。出生と同時に、胎児は自分で呼吸し、肺でのガス交換を行う(図1)。
第一呼吸と第一啼泣
新生児は第一吸気に続いて吸い込んだ空気を吐き出す。そのときに少し声門を閉じて胸腔内に陽圧をつくりながら息を吐き出す。これが第一啼泣となる。
<出生直後の呼吸の特徴>
・40~50回/分。生後1~2時間以内に安定する。
・成人よりも呼吸数が多い理由:酸素消費量が多い。肺が小さいわりに気道の生理的死腔が大きいため、1回換気量が少ない。
・出生後数時間は不規則な呼吸となる。
・周期性呼吸:速い呼吸、急にゆっくり、しばらく止まる。早産児では長期間持続する場合がある。
・出生直後には肺胞液が残っているため、湿性ラ音が聞こえることがある。
<必要な処置>
・気道の確保、体表の水分をタオルで拭いて刺激を与える。
・新生児は鼻から呼吸し、口では呼吸ができない。気道の閉塞があり、吸引が必要な場合には、まず口腔内を吸引し、次いで鼻腔を吸引する。
出生直後に起こりやすい呼吸障害
<鼻翼呼吸>
・吸気時に鼻翼を拡大させることで気道抵抗を減少させようとする(図2)。
<陥没呼吸>
・吸気時に肋間腔や剣状突起下が陥没する(図3)。
・通常は吸気時には胸郭を広げ、胸腔内を陰圧にすることで受動的に肺胞内に空気を取り込む。しかし、気道抵抗が強く十分な空気が取り込めない場合、胸腔内に作り出される陰圧のために、肋間腔、剣状突起下が内側に引き込まれて陥没してしまう。
<シーソー呼吸>
・呼吸数が増加し、横隔膜と胸郭の動きが同調できなくなり、胸部と腹部の動きが逆になる。
<呻吟(しんぎん)>
・吸気時に声門を狭めるため、空気が声門を通過する際に「う~」といううなり声がみられる。
・呼気に抵抗を加えて、呼気時間を延長させ、肺胞の虚脱を防ぐ防御反応である。
呼吸障害の評価
出生直後に一過性にみられる軽度の鼻翼呼吸や陥没呼吸などは正常の範囲である。ただし、鼻翼呼吸や陥没呼吸、シーソー呼吸、呻吟などが複合的に見られる、またチアノーゼを伴うなどの場合には呼吸障害が疑われる。
陣痛発来前の帝王切開で生まれた児
陣痛によるストレスが加わるとエピネフリンが分泌され、Ⅰ型、Ⅱ型肺細胞上皮細胞による排液の吸収が促進される。しかし、帝王切開の場合は、この機序が働かず排液の吸収が促進されない。このため、呼吸障害や新生児一過性多呼吸になりやすい。
出生時のルーチンケア
出生時にとくに問題のない児のルーチンケアでは、母親のそばで低体温の予防をしながら気道を開通する体位をとらせて、羊水を拭き取る。必ずしも吸引は必要ない(「新生児の蘇生」を参照)。
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パルスオキシメータ
呼吸障害があり、観察が必要な場合や蘇生が必要な場合には、パルスオキシメータを装着し、経皮的動脈血酸素飽和度(SpO2)を測定する。右手首または右手掌にて測定できる動脈管前の値は、動脈管後の値より高値であるため、右手首に装着する(図4)。
< SpO2値のめやす>
・生後1分間:60%以上
・生後3分間:70%以上
・生後5分間:80%以上
・生後10分間:90%以上
・上限:95%(人工呼吸時の場合)
シルバーマンの陥没指数
呼吸障害のある新生児を評価する方法である(Silvermanのretraction score)。胸壁と腹壁の動き(シーソー呼吸)、肋間と剣状突起下の陥没の有無、鼻翼呼吸の有無、呻吟の有無を観察する。合計点が0~10点となり、点数が低いほうが正常となる(図5)。
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本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。
[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版