早期母子接触|早期母子接触・早期授乳①

『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』(サイオ出版)より転載。
今回は早期母子接触について解説します。

 

細川直子
元・おおいしレディースクリニック助産師

松永佳子
東邦大学看護学部准教授

立岡弓子
滋賀医科大学医学部看護学科教授

 

 

早期母子接触とは

出生後早期から母子が直接肌を触れ合い五感をとおして交流を行うことを早期母子接触という。

 

早期母子接触の利点

早期母子接触では愛着行動を通じて母子関係を深めることができる。

 

ボウルビィー(Bowlby J)は、「愛着の形成はその後の子どもの心身の発達の鍵を握るもの」としている。また、クラウス(Klaus M.H)とケネル(Kennell J.H)は「出産後すぐに母親と子どもを一緒にすることは母子間に一度に多くの相互作用を発生させ、両者を精神的に結びつけ、さらに母子間の愛着が発展することを保証していく」としている。

 

早期母子接触を行うことで、母親と児の双方が互いの肌の感触や温かみを感じ(触覚)、互いに匂いを嗅いで母は児を児は母の匂いを認識する(嗅覚)。児は乳頭を吸う音やささやきかけてくれる母親の声を聞き(聴覚)、さらに互いの表情を見る(視覚)などの相互作用が促される。出生直後に早期母子接触を行うことで母子の早期接触の機会となり、愛着形成が促進されることでその後の母子関係に良好に作用する(図1)。

 

図1 母子相互作用

母子相互作用

エントレインメント

 

カンガルーケアとは

カンガルーケアは、1970年代に南米のコロンビアで、低出生体重児に対する慢性的な保育器不足から開始され、低出生体重児の生存率が上昇したことから、NICUの代替法として発展途上国に広まった。

一方先進国では、NICUなどの施設の充実から低出生体重児であっても比較的容易に救命できる環境にあった。しかし、それゆえに長期間にわたって母子分離状態にあることも多く、愛着形成が障害されることが問題となった。

そのため1980年代より先進国でも低出生体重児に対する母子心理発達の面から取り入れられるようになった。一般的にNICUで早産児を対象に行なわれるものをカンガルーケアという。

エントレインメント

話しかける人の言葉やリズムが聞き手に無意識のうちに働きかけ、その聞き手も同様に身体を動かしたりリズムをとったりするなど、相手に同調する現象。

早期母子接触の効果

①保温を保ちやすい。
②無呼吸が少なくなる(呼吸の安定)。
③ポジショニングにより酸素を取り入れやすい。
④母の常在菌を新生児に与えることができる。
⑤母子相互作用。
⑥泣く回数が減少する。

 

早期母子接触の留意点

出生直後の新生児は胎外生活へ適応していく時期であり、低体温を引き金として全身状態が変化しやすい点に注意が必要である。

 

出生時の児の体温

胎児体温は母体温に児自身の熱産生が加わるため母体温+ 0.3〜0.5℃である。胎児ー母体の熱交換は臍帯・胎盤を通じて行われている。出生時には間欠的に胎児ー母体間の血流が途絶えることにより温度差が大きくなり、出生直後の児の体温は母体温+0.5~1.0℃となっている。

 

①出生後の新生児の体温変化

出生直後の児の体温は37~38℃程度であるが、新生児の生理的特徴から熱を喪失しやすく、その産生量は少ない。

 

また、体温調節可能温度域が狭いために環境の温度に左右されやすい。出生直後の児を取り巻く環境温(分娩室温)は約24~26℃と児にとって非常に寒いことから、容易に低体温に陥りやすい状態にある。

 

体温管理次第で出生後体温は急速に低下し、30分以内で深部体温(直腸温)が2~3℃低下することもある(図2)。

 

図2 生後30分間における新生児の体温変化

生後30分間における新生児の体温変化 グラフ説明

生後30分間における新生児の体温変化

 

新生児の体温調節の特徴

新生児の体表面積は体積に比べ成人の約3倍も大きく熱を喪失しやすい。皮下脂肪を含めて皮膚が薄く、皮膚の温度調節能力が未熟である。人の熱産生には基礎代謝・随意筋の運動・不随意筋の運動・筋肉運動によらない熱産生があるが、新生児では褐色脂肪細胞で行われる筋肉運動によらない熱産生が主であり、それ以外の熱産生機構は未発達である。

 

②新生児の低体温とは
新生児の正常直腸温は36.5~37.5℃である。直腸温が正常であれば、皮膚温は36.0~36.5℃以上に保つ環境で保育する。

 

直腸温が35.5℃以下のとき、正常範囲を超えた低体温という。新生児の場合は36.5~36.0℃でも徐脈傾向を認める。

 

③低体温がまねく悪循環図3

◯産熱亢進→筋緊張亢進→酸素消費・エネルギー消費の増大→低血糖
◯放熱抑制→末梢血管収縮⇒静脈還流減少⇒各臓器の循環血液量減少

 

図3 低体温がまねく悪循環

低体温がまねく悪循環

 

❶消化管血流減少→腸蠕動低下→消化機能低下
・初期嘔吐の増加→哺乳障害→低栄養→低血糖症
・胎便排泄遅延→重症黄疸・胎便性腸閉塞・壊死性腸炎
❷肝血流減少→糖新生抑制→低血糖症
❸肺動脈血流減少→肺高血圧症→右左シャント→呼吸障害→低酸素血症

 

低体温症から引き起こされる低血糖症は、さらなる低体温を引き起こすという悪循環をまねく(図4)。

 

図4 「低体温」⇔「低血糖」のメカニズム

「低体温」⇔「低血糖」のメカニズム

 

また、新生児では特徴的な低血糖症状がみられていなくても中枢神経障害をもたらす可能性があり、注意が必要である。早期母子接触実施中に低体温が認められた場合には、速やかにケアを中止し、保温・糖分補給などの介入を行う。

 

早期母子接触中の事故

2009年の日本母乳哺育学会の学術集会で国内205の医療施設に対する調査の結果、カンガルーケア中に児の状態が急変したケースが16例あることがわかった。心肺停止や呼吸停止に陥り死亡したケースや、脳機能障害など重篤な症状が残っているケースもある。いずれの場合も医療者の見守りがなく、児の呼吸状態などを観察する機械の設置もしていなかったという。

 

 

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早期母子接触の実際(正常新生児〈分娩直後〉の場合)

実施条件

母親の基準
・本人が「早期母子接触」を実施する意思がある
バイタルサインが安定している
・疲労困憊していない
・医師、助産師が不適切と認めていない

 

児の基準
・胎児機能不全がなかった
・新生児仮死がない(1分・5分アプガースコアが8点以上)
・正期産新生児
・低出生体重児でない
・医師、助産師、看護師が不適切と認めていない

 

胎便排泄遅延がもたらすリスク

成熟児の胎便量は100~200g とされ、胎便1gあたり1.0mgのビリルビンが含まれている。よって、腸管内には100〜200mgのビリルビンが存在している。新生児が1日に産生するビリルビン量は3kgの児で約20mgであることを考えると胎便中に存在するビリルビン量は5~10倍に相当する。胎便の排泄が遅れることで腸肝循環によりビリルビンの再吸収が起こり重症黄疸となってしまう。

胎便性腸閉塞

胎便に起因する閉塞性腸疾患の総称で、そのうち結腸下部に起こる胎便性腸閉塞は胎便栓症候群とよばれている。腸管血流が低下することで胎便の粘稠性が増し、胎便栓ができ、腸閉塞が起こる。生後24時間頃より腹部膨満・腸管拡張がみられる。

 

中止基準

母親の基準:
傾眠傾向
・医師、助産師が不適切と判断する

 

児の基準:
・呼吸障害(無呼吸、あえぎ呼吸を含む)がある
・SpO290%未満となる
・ぐったりし活気に乏しい
・睡眠状態となる
・医師、助産師、看護師が不適切と判断する

 

実施方法

妊娠中のバースプラン作成時に「早期母子接触」についての説明を行う。
・出生後はできるだけ早期に開始する。30分以上、もしくは児の吸啜まで継続することが望ましい。
・継続時間は上限を2時間以内とし、児が睡眠したり、母親が傾眠状態ととなった時点で終了する。
・実施中は、経皮的に脈拍数やSpO2を得るためにパルスオキシメータを持続的に装着しておく。

 

実施場所

分娩台(分娩室の温度は24~26℃以上に保たれている)

 

必要物品

バスタオル(2枚)、フェイスタオル、おむつ、新生児用衣類、保温用アルミシート(図5)、インファントウォーマー、直腸用体温計聴診器、経皮的酸素飽和度モニター、(必要時)帽子。

 

図5 アルミシートの活用

アルミシートの活用

保温効果の高いアルミシートをバスタオルにはさむ。

 

手順

1出生直後、分娩台にて児に付着した血液や羊水をすばやく拭き取り、呼吸の確立を確認する。臍帯切断後、全身状態、1分後のアプガースコアを確認する。

 

2母児対面後、インファントウォーマー下にて温めたバスタオルで再度血液や羊水などをしっかりと拭き取り、直腸温での体温測定、呼吸・循環・全身状態の観察を行い、児の状態がケア実施可能な状態であるか判断する。

 

臍帯血液ガスデータ

胎児末梢血pHによる胎児アシドーシスの診断基準は表1のとおり。

 

表1 胎児末梢血pHによる胎児アシドーシスの診断基準

胎児末梢血pHによる胎児アシドーシスの診断基準

 

臍帯動脈血液ガス正常値
酸素分圧(PO2):27.4±5.7mmHg
二酸化炭素分圧(PCO2):37.8± 5.6mmHg
BE(ベースエクセス)は、H+(酸性)を中和する能力(緩衝能力)が正常からどの程度ずれているかを示す指標。プラスの場合は緩衝能力が正常以上にあること(代謝性アルカローシス)、マイナスの場合は緩衝能力が低下していること(代謝性アシドーシス)を示す。

 

3新生児にパルスオキシメータを装着する。

 

4インファントウォーマー下にて温めておいたおむつを着け、衣服に袖を通す(SFD児に近い児には帽子をかぶせる)。

 

5分娩経過や出血量などから母親の状態を確認し、ケアが実施できる状態か判断する。「早期母子接触」希望の意思を確認する。

 

6上体を30度に、分娩により母親に発汗がみられていることがあるため、乾いたタオルで胸部の清拭を行う。

 

7母親をセミファーラー位にし、母親の素肌と児の素肌が触れ合うように児を胸に抱いてもらう(図6)。母親から児の顔が確認できる位置に調節する。
 

このとき、児の顔を横に向けて鼻腔閉塞を起こさず、呼吸が楽にできるようにする。

 

図6 早期母子接触の実際

早期母子接触の実際

 

8インファントウォーマーで温めたバスタオルを二つ折りにし、間に保温効果の高いアルミシートを入れ、児の上から児を包み込むようにして掛ける。

 

9児に話しかけたり触れたりするよう母親に説明する。

 

10新生児の正常な顔色や動きについて母親に説明するとともに、新生児蘇生に熟練した医療者が立会う。

 

11出生後できるだけ早期にできるだけ長く実施する。ただし、2時間程度を目安とする。

 

12なるべく助産師が付き添うようにし、母子だけにしないようにする。

 

観察項目

・直腸温が36.5~37.5℃に保たれている。
チアノーゼの有無
・呼吸状態(多呼吸・浅呼吸・無呼吸・陥没呼吸・呻吟(しんぎん)の有無)
・酸素飽和度が95~100%に保たれている。
心拍数に徐脈がみられず正常範囲内である。

 

早期母子接触中の新生児の体温変動

図7に示すように、早期母子接触の実施時間の経過に伴い皮膚温は上昇している。直腸温は正常直腸温の範囲内にあるものの36.7℃前後であることから、早期母子接触中の児の保温に努めていく必要がある。

 

図7 早期母子接触中の新生児の体温変動

早期母子接触中の新生児の体温変動

 

 

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引用・参考文献

1)篠原公一、山城雄一郎:新生児の消化管機能の発達―早期授乳は消化管機能の発達を促進―、周産期医学、35(増):p.276-280、2005
2)市橋寛: 低出生体重児への早期授乳の効果、Neonatal Care、16(12):p.1070−1075、2003
3)中垣明美:新生児の呼吸循環適応過程からみた正規産正常分娩後のカンガルーケアの安全性の検討、科学研究費補助金研究成果報告、2009
4)日本周産期・新生児医学会理事会内「早期母子接触」ワーキンググループ:「早期母子接触」実施の留意点、2012

 


 

本連載は株式会社サイオ出版の提供により掲載しています。

 

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[出典] 『新訂版 周産期ケアマニュアル 第3版』 編著/立岡弓子/2020年3月刊行/ サイオ出版

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