ストーマサイトマーキング
『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』より転載。
今回はストーマサイトマーキングについて解説します。
著者/ぷろぺら(看護師)
医学監修/平野龍亮
相澤病院外科センター乳腺・甲状腺外科
日本外科学会専門医・日本乳癌学会乳腺認定医・臨床研修指導医
ストーマサイトマーキングの重要性
ストーマサイトマーキングはストーマとの生活の第一歩です。
ストーマを造設する位置を決める「ストーマサイトマーキング」は主に看護師が行いますが、医師や患者さん本人もかかわります。
そして、最終決定者は患者さん自身。その意味と重要性をここでしっかり確認しておきましょう。
手術は医師が行うもので、手術部位のマーキングも医師が行いますよね。でもなぜ、ストーマサイトマーキングだけは看護師がするんですか?
それは「ストーマをつくる」ということが患者さんの生活に、ひいては人生に密接にかかわるから!
ストーマは患者さんの第二の肛門になるものよ。
排便しない人間はいないわよね。
ストーマがどういうものなのか、これからどう生活が変わるのか、そういったこともお話しながら、看護師がストーマを造設する位置を決めていくの。
患者さんの療養生活のお手伝いをするのは看護師の仕事でしょ?
生活スタイルやADLに関する情報収集を行って、それに合わせた装具の選択を行うのも看護師の仕事。
そういう意味では、サイトマーキングのときから、装具選択は始まっているともいえるねぇ…
責任重大じゃないですか…
だからストーマケアは深くて面白くてやりがいがあるのだよ!
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ストーマサイトマーキングの方法
基本は医師から指示があった場所(左上、右下など)を中心にマーキングを行いますが、術中は何が起こるかわかりません。
いざとなって腸の長さが足りなくなり、マーキングがない場所にストーマをつくらなくてはならない事態も想定されます。
そこで、時間や患者さんの体力に余裕があれば、左右上下4点にマーキングを行うのが理想です。マーキングは、以下の手順で行います。
サイトマーキングの手順
必要物品
・マーキングディスク
・水性ペン
・油性ペン
・定規
・カメラ
・タオル
❶
患者さんに仰臥位になってもらい、臍を中心とした正中線、ベルトライン、 左右肋骨弓、左右上前腸骨棘に水性ペンで印をつける。しわ、瘢痕の位置を確認する
❷
腹直筋の位置に印をつける。
つま先を立てて、つま先が見えるよう頭だけを起こしてもらうと腹壁に腹直筋が触れるので、そこに印をつける
❸
マーキングは基本的にこの腹直筋の直上に行う。このとき、マーキングディスクがマーキング内に収まらなくても大丈夫。
面板が貼れる平面を確保できる場所に水性ペンで仮印をつける
❹
いろいろな姿勢(立位や坐位、 ADLが高い人は前屈やひねり)をとってもらい、マーキングディスクを置きながら微調整をくり返す。このとき、マーキングを行った部分が患者さん本人に視認できるか指差しして確認してもらう
❹は患者さんのADLにあわせて行ってください!
チェックポイント
☑坐位でマークをした場所がしわなどで隠れてしまうことはないか
☑立位で腹壁が大きく突出したり、垂れ下がったりしてしまうことはないか
☑普段よくとっている姿勢をとってもらい、マーキング部が隠れたりしないか
自分でストーマケアをする人なら、ストーマが見えないと格段にケアがしづらくなっちゃうし、トラブルも見つけづらくなるからね~
❺
ディスクが収まる場所が見つかったら油性ペンで印をつけ、水性ペンでつけたマーキングは消す。マーキング部の臍、ベルトライン、正中線、肋骨弓、上前腸骨棘からの距離を測定し、記録しておく。また、カメラで腹壁全体を撮影する
あとは手術がうまくいくよう祈るのみ!
❹のときには、どの程度の運動を日常のなかでしているか、どんな仕事をしているか…などの情報収集も行いましょう。
たとえば掃除ひとつとっても、「掃除機をかけるだけの人」と「床を全部雑巾がけする人」では、お腹の動き方も汗のかき方も違うよね〜
極端な例だと、「一日中こたつに座っていて、動くのはトイレに行くときくらいの80歳代女性」と、「毎日10kmランニングする30歳代男性」では全然違うわよね。
私たちの目標は、「ストーマを造設しても術前と変わらない生活を送れること」!だからこそ、普段の生活の情報収集がとっても大切なのよ!
現場でストーマサイトマーキングを行う人の状態はさまざまです。
たとえば、腸管穿孔を起こして腹膜炎を併発していたり、強い疼痛やショック状態で坐位や立位での腹壁状態が確認できなかったり、あるいは腹部膨満が強くて腹直筋が確認できないこともままあります。
そのようなときでも、お腹をよく見ることで円背が予測できたり、しわの入る位置も予想できます。臥位のまま下肢を屈曲させるのも緊急時には有効!
また、どのような状況でも、必ず可能な範囲で生活について情報収集を行い、術後トラブルの防止につなげていきましょう!
すっごく大変なんです!
先生! よろしくお願いします!
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ストーマサイトマーキングの注意点
マーキングする位置、人によっては場所がすごく限局されそう…
なぜ、こんなに狭いんですか?
ストーマは、基本的に腹直筋を貫くように造設します。
腹腔内圧は大気圧より高いため、もし腹壁に穴があったり弱いところがあると、内臓がそこから外に出てこようとしてきます。
ストーマはどうしたって腹壁に穴を開けなければなりませんが、そのような弱いところに穴を開けると、脇から腸管が腹圧で押されるように脱出してきてしまいます。これを「ストーマ傍ヘルニア」といいます。
ストーマ傍ヘルニアになると、ストーマ周囲が腸管で突出したりしてしまい、ストーマ管理が難しくなりますし、もちろん見ため的によくないですよね。そこで、なるべく強い所に穴を開けるため、腹直筋を貫くように造設するのです。
筋肉で固定をしておくことで、ヘルニアの状態にならないようにする必要があるんだよね~
また、「肋骨弓や上前腸骨棘にディスクが乗らないように」というのは、硬い骨で面板を浮かせてしまうことがあるためです。
骨に当たるようなところにストーマが造設されることはまずありませんが、体の小さい患者さんだと装具によっては面板が当たったりする可能性はあります。
また、高齢の患者さんだと坐位で肋骨弓が落ちてきたり、腸骨が浮いたりすることがあります。
さらに、臍や手術瘢痕にも注意しましょう!
臍は陥没しているので、あまりにストーマが近いと陥没した部分から便が漏れる原因になります。
また、基本的に手術のときには臍を避けるように切開するため、術創が近くなるリスクが高くなります。術創も皮膚の陥没や隆起の原因になるため、装具がかぶらないようにしましょう。
術創には、なるべく粘着力の強い装具をかぶせたくないので、腹直筋があるから、と安易に臍近くにマーキングするのは避けたいところよね~
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【著者プロフィール】
ぷろぺら(@puropera44)
看護師。これまでに慢性期病棟、クリニック、消化器外科、HCU、救急病棟、泌尿器科、腎臓内科などを経験。
看護roo!では『マンガ・ぴんとこなーす』を連載中。
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本連載は株式会社南山堂の提供により掲載しています。
[出典] 『ナスさんが教える! ぴんとくる消化器外科看護』 著者・ぷろぺら/医学監修・平野龍亮/2020年3月刊行/ 南山堂