肺アスペルギルス症
『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肺アスペルギルス症について解説します。
平澤真実
さいたま赤十字病院ICU看護主任
慢性呼吸器疾患看護認定看護師
肺アスペルギルス症とは?
アスペルギルス(Aspergillus)属とは糸状菌の形態をとり、土壌や空気中など自然界に広く存在する真菌の一種です。
真菌とは真核微生物の一種で、カビやキノコ類が含まれます。
地球には約10万種類が存在するといわれていますが、そのうちヒトに病原性を示すものが真菌感染症の原因となります。
真菌症は発症部位によって大きく3つに分類され、肺真菌症は深在性真菌症に該当する。
●表在性真菌症:皮膚や爪、粘膜に生じる
●深部皮膚真菌症:真皮や皮下組織に生じる
●深在性真菌症:肺や腸管など全身の臓器に生じる
肺アスぺルギルス症とは、アスペルギルスが経気道感染し、肺に発生するものをいいます。陳旧性肺結核や気管支拡張症、免疫機能の低下した患者さんが罹患することが多く、健常者が感染することがまれな日和見感染症です(表1)。
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患者さんはどんな状態?
肺アスぺルギルス症は、病態によっていくつかに分類されます。患者さんの免疫能の程度によって、非侵襲性の単純性肺アスペルギローマ(SPA;simple pulmonary aspergilloma)、組織侵襲性の強い侵襲性肺アスぺルギルス症(IPA;invasive pulmonary aspergillosis)、中間の病態を示す慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA;chronic progressive pulmonary aspergillosis)に分けられます。
病態によっては長期間無症状のもの、咳嗽や血痰、喀血や発熱などの呼吸器症状が出現するものもあります。
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どんな検査をして診断する?
X線画像上、空洞性病変内に菌球形成や空洞壁の肥厚を認めます(図1、図2、図3)。
図2 慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA)の X線、CT
memo:ハローサイン
結節や腫瘤の周囲にみられるすりガラス陰影。
喀痰培養でアスペルギルス属が検出されるか、血清学的にアスペルギルス抗原・抗体が陽性であることで診断をします(表2)。
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どんな治療を行う?
各病態によって外科的切除や抗真菌薬の使用などを行います。
単純性肺アスペルギローマ(SPA)
手術療法:外科的切除を行います。
薬物療法:ボリコナゾール、イトラコナゾールなどの経口抗真菌薬を投与します。
慢性進行性肺アスペルギルス症(CPPA)
薬物療法:ミカファンギン、ボリコナゾールなどの抗真菌薬を投与します。
侵襲性肺アスペルギルス症(IPA)
薬物療法:ボリコナゾール、アムホテリシンBリポソーム製剤などの抗真菌薬を投与します。
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看護師は何に注意する?
病態によっては無症状の場合もありますが、時に大量の喀血によって命の危険にさらされる場合もあります。呼吸状態のこまめな観察とアセスメントが必要です。
患者さんの多くは免疫能が低下しています。看護師が患者さんに他の感染症の媒介とならないよう、ケアの際にはスタンダードプリコーションを徹底しましょう。
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肺真菌症の看護の経過
肺真菌症の看護の経過は以下のとおりです(表3-1、表3-2、表3-3、表3)。
表3-3 肺真菌症の看護の経過(一般病棟・自宅療養(外来)に向けて)
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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。
書籍「本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器」のより詳しい特徴、おすすめポイントはこちら。
[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社