肺がんの薬物療法

『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は肺がんの薬物療法について解説します。

 

 

深谷 一
さいたま赤十字病院12F西病棟
がん化学療法看護認定看護師

 

 

どんな治療?

がんの治療では局所療法である手術療法、放射線療法と、全身治療である薬物療法が選択されます。多くのがんは、病期により治療選択や治療の目的が異なります(図1)。

 

図1 病期によるがん治療の選択と治療の目的

病期によるがん治療の選択と治療の目的

 

薬物療法に対する感受性はがん種により異なります。造血器腫瘍のように薬物療法による治癒が期待できるがん種では薬物療法が主体となりますが、固形がんの多くは薬物療法のみでは治癒が望めないことが多いため、手術療法や放射線療法を組み合わせた集学的治療が必要となります。

 

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薬物療法の目的とゴール

治癒を期待できる治療と、QOL維持や緩和・延命を目的とした治療では、治療の進め方が大きく異なるため、看護師は患者さんの治療の先に見えるゴールを見きわめ支援していく必要があります。

 

術前化学療法と術後補助化学療法

手術と化学療法がセットになった治療であり、目的は手術による治癒の可能性を向上させることです。

 

がんの種類や病期(ステージ)に応じ、エビデンスに基づいたレジメンを選択し、予定された治療をできる限り減量することなくスケジュールどおりに行うことが重要となります。

 

memo:エビデンス

科学的根拠のこと。EBM(Evidence-Based Medicine)は、科学的根拠に基づく医療。

memo:レジメン

がん薬物療法において、使用する抗がん剤・輸液・支持療法薬(制吐剤など)の組み合わせや薬剤の投与量、投与スケジュールなどを示した時系列的な治療計画のこと。

 

ここで大切なのは、スケジュールどおり治療が行えることです。副作用や個人的な予定によりスケジュールが大幅に乱れると、期待できる効果が得られないこともあるため、患者さんとともに治療期間や予測される副作用を理解し、患者さんが治療と社会生活を両立できるように支援する必要があります。

 

緩和的化学療法

転移・再発がんに対して行う化学療法です。治癒が見込めないため、患者さんの年齢や全身状態(PS)、合併症、治療意向などを重視しながら行います。

 

目的は症状緩和やQOLを維持すること、延命です。術前・術後補助化学療法のように投与回数や期間が決まっていないことが多いため、治療の効果が得られ、副作用のコントロールができている間は治療を継続します。治療と並行して緩和ケアを勧めることも必要です。

 

副作用により日常生活に支障がないような治療選択も重要です。

 

患者さんの意向によっては治療を休止・中止することもあるため、治療の選択や継続を支えるだけではなく、治療をやめる意思を尊重する姿勢も重要となります。

 

 

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肺がんの薬物療法に用いられる薬剤

細胞障害性抗がん剤(cytotoxic drug)

一般的に「抗がん剤」といわれる薬剤です。DNAの合成や細胞分裂に作用して細胞障害性を示します。

 

分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬の登場により使用機会は減ってはいますが、今なおほとんどのがん種に対する標準治療に使用されています。

 

分子標的治療薬

がん細胞の受容体や細胞内シグナル伝達物質など、特定の機能を有する標的分子に特異的に作用して抗腫瘍効果を示します。

 

細胞の外で作用する抗体薬と、細胞内で作用する小分子薬に大別されます。

 

劇的な腫瘍縮小効果が得られる一方で、細胞障害性抗がん剤とは異なる副作用がみられます。

 

免疫作用薬(免疫チェックポイント阻害薬)

免疫チェックポイント阻害薬は、免疫へのブレーキとしてはたらく「免疫チェックポイント分子(PD-1;programmed cell death 1/PD-L1;programmed cell death 1- ligand 1)」を解除することで、免疫ががんを攻撃する力を強め、抗腫瘍効果を発揮する薬剤です(図2)。

 

memo:免疫

自己にとっての異物(病原微生物やがん細胞など)を非自己として排除しようとする機能。免疫の中心であるT細胞には、アクセル役とブレーキ役の受容体が複数存在し、がんの中には、このT細胞からの攻撃を免れようと、ブレーキ役の受容体であるP D - 1 に対し、PD-L1を発現するものがある。

 

図2 免疫作用薬の作用イメージ

免疫作用薬の作用イメージ

★1 免疫チェックポイント阻害薬の副作用

 

DDS製剤(drug delivery system)

標的部位のみに薬物が運ばれるようにつくられた薬剤です。アクティブターゲティングactive targeting)とパッシブターゲティングpassive targeting)の2種類があります。

 

アクティブターゲティングは、分子間の特異的結合を利用しており、パッシブターゲティングは、正常血管では血管外に漏出しにくい高分子物質が腫瘍血管では漏出しやすいという性質を利用しています。

 

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肺がんの薬物療法

肺がんの薬物療法では、分子標的治療薬や免疫チェックポイント阻害薬を用いた集学的な治療が必要となります。組織型と遺伝子異常、PD-L1の発現をみて治療法を選択します。

 

memo:MET

mesenchymalepithelial transition(間葉上皮転換因子)。MET遺伝子の発がん性変異やMET過剰発現によりがん細胞の増殖、遊走および浸潤が増加するため、これに対してテポチニブ、カプマチニブの2剤の低分子METチロシンキナーゼ阻害薬が開発され、使用が開始されている。

 

小細胞肺がん

病期分類とは別に、放射線療法の観点から病変が片側胸郭内に限定される限局型(LD;limited disease)と、対側胸郭に進展した進展型(ED;extensivedisease)に分けて考えます(表1)。

 

表1 小細胞肺がんの病型・病期と治療方法

小細胞肺がんの病型・病期と治療方法

★1 パフォーマンスステータス(PS)

 

非小細胞肺がん

病期分類ごとに治療方法が異なります(表2)。

 

表2 非小細胞肺がんの病期と治療方法

非小細胞肺がんの病期と治療方法

 

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がん薬物療法の副作用

がん薬物療法を継続して行うためには、副作用が重要な課題であることを理解しなければなりません。

 

細胞障害性抗がん剤、分子標的治療薬、免疫チェックポイント阻害薬それぞれに特徴的な副作用があるだけではなく、併用化学療法時には症状の程度や頻度も異なってくるため、事前に理解し、対処方法を知っておく必要があります。

 

細胞障害性抗がん剤の副作用

薬剤が全身をめぐりがん細胞に抗腫瘍効果を発揮する一方で、正常細胞にも作用するため、骨髄抑制脱毛悪心・嘔吐神経障害などの副作用を生じます(図3)。

 

図3 細胞障害性抗がん剤による副作用発現時期

細胞障害性抗がん剤による副作用発現時期

 

分子標的治療薬の副作用

消化器毒性(特に下痢)、肝毒性皮膚毒性肺毒性など多彩な副作用がみられます。

 

標的分子の一部が正常細胞にも存在していることや、標的分子外にも作用することにより副作用が出現することがあります。例えば、EGFRチロシンキナーゼ阻害薬のターゲット分子は皮膚にも存在するため、皮膚障害が特徴的な副作用としてみられます。また、皮膚や粘膜、爪の障害などは投与初期よりも後期になって症状が顕著になってくるため、経時的に観察する必要があります。

 

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫反応の活性化に関連した副作用が出現します(図4)。これを免疫関連有害事象(irAE;Immune-related adverse events)といい、これまでの抗がん剤ではあまりみられない特徴的な副作用に注意が必要です。

 

図4 免疫チェックポイント阻害薬の副作用

免疫チェックポイント阻害薬の副作用

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社

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