酸素療法

『本当に大切なことが1冊でわかる呼吸器』(照林社)より転載、Web掲載にあたり一部改変。
内容は書籍刊行当時のもの。
今回は酸素療法について解説します。

 

 

橋本洋一
さいたま赤十字病院12F西病棟看護主任
呼吸療法認定士

 

 

どんな治療?

酸素療法は、室内気よりも高濃度の酸素を吸入することで、低酸素症や低酸素血症を改善することを目的とした治療です。

 

memo:低酸素症と低酸素血症

組織の酸素分圧が低下した状態を低酸素症、動脈血中の酸素分圧が低下した状態を低酸素血症という。

 

酸素療法には、酸素マスクなどの器具を使用します。器具は供給できる酸素流量によって、低流量システム高流量システムに分かれています。

 

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低流量システム

低流量システムには、鼻カニューレ酸素マスクリザーバーマスク(リザーバーシステムとして別に分類される場合もある)があります。

 

患者さんの1回換気量以下の酸素ガスを供給する方式で、不足分は室内気を一緒に吸入することで補われます。

 

患者さんの呼吸状態によって、吸入酸素濃度に変化が生じます。

 

鼻カニューレ

鼻腔から酸素を吸入するため、食事や会話を容易に行うことができます(図1)。

 

図1 鼻カニューレの例

鼻カニューレの例

 

口元を覆わないため、不快感や閉塞感は少なくなります。

 

常時口呼吸の患者さんでは期待する効果が得られないことがあるため、推奨されません。

 

酸素流量が6L/分を超えると、鼻粘膜への刺激が強くなるため、酸素流量は6L/分以下とします(表1)。

 

表1 鼻カニューレの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

鼻カニューレの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

 

酸素マスク

口と鼻を覆うタイプのマスクで、患者さんが口呼吸でも酸素吸入を行うことができます(図2)。

 

図2 酸素マスクの例

 酸素マスクの例


鼻粘膜への直接の刺激がないため、鼻カニューレよりも高流量の酸素を流すことができます。

 

口元を覆っているため閉塞感を感じることがあります。また、食事や会話のしにくさがあります。

 

呼気ガスの再吸収を予防するため、酸素流量は5L/分以上にします(表2)。やむをえず酸素流量5L/分未満で使用する場合は、PaCO2が上昇することに留意しましょう。

 

memo:呼気ガスの再吸収

酸素流量が少ないと、マスク内に二酸化炭素を含む呼気が貯留するため、貯留した呼気を再度吸収することにより、体内に二酸化炭素が溜まる可能性がある。

 

表2 酸素マスクの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

酸素マスクの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

 

リザーバーマスク

リザーバーバッグと呼ばれる袋がついているのが特徴です(図3)。

 

図3 リザーバーマスクの例

リザーバーマスクの例

 

吸気時は、リザーバーバッグ内に溜まった酸素を吸入するため、高濃度の酸素を吸入することができます。

 

酸素マスクと同様に、閉塞感を感じることがあります。

 

リザーバーバッグ内に十分な酸素を溜めるため、また酸素マスクと同様に呼気の再吸収を予防するため、酸素流量は6L/分以上に設定します(表3)。

 

表3 リザーバーマスクの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

リザーバーマスクの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

 

 

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高流量システム

高流量システムには、ベンチュリーマスク高流量鼻カニューレ(HFNC;high-flow nasal cannula)があります。

 

患者さんが吸入する空気のすべてを、酸素が混合されたガスとして供給します。

 

患者さんの呼吸状態に影響を受けず、吸入酸素濃度を一定に保つことができます。

 

ベンチュリーマスク

ダイリューターと酸素流量で吸入酸素濃度を24~50%に調節します(図4表4図5)。

 

ダイリューターにはそれぞれ推奨酸素流量が規定されており、この流量で酸素を流すことで印字されている酸素濃度に設定できます。

 

酸素や呼気ガスを流出させるためのマスクの穴や、ダイリューターの空気取り込み口はふさがないように注意しましょう。

 

図4 ベンチュリーマスクの例

ベンチュリーマスクの例

 

表4 ベンチュリーマスクの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

ベンチュリーマスクの酸素流量と吸入酸素濃度のめやす

 

図5 ベンチュリー効果

ベンチュリー効果

 

高流量鼻カニューレ

鼻カニューレを用いて、最大60L/分の酸素流量を吸入酸素濃度21~100%で投与が可能です(図6図7)。

 

図6 高流量鼻カニューレの例

高流量鼻カニューレの例

 

図7 高流量鼻カニューレの装着方法

高流量鼻カニューレの装着方法

 

高流量システムのため、患者さんの呼吸状態に影響を受けずに正確な酸素濃度で酸素投与ができます。

 

鼻カニューレを使用しているため、不快感が少ない、会話がしやすい、経口摂取が可能といったメリットがあります。

 

十分な加温加湿により気道の乾燥を防ぎ、線毛運動を維持できます。
 

PEEP効果をもたらすことや、解剖学的死腔の洗い出し、上気道抵抗の軽減により呼吸仕事量を減少させます。

 

memo:PEEP効果

PEEPとは呼気終末陽圧(positive end expiratory pressure)のことで、高流量の酸素を流し続けることで気道内圧を上げる効果があり、肺胞の虚脱を予防する。ただし、高流量鼻カニューレのPEEP効果は軽度である点、開口具合によって変化する点に注意する。


鼻カニューレのバンドによる皮膚トラブルに注意しましょう。

 

加湿用精製水の消費量が多いため、加温加湿器の空焚きに注意しましょう。

 

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看護師は何に注意する?

酸素療法の合併症として、酸素中毒CO2ナルコーシス吸収性無気肺などがあります。これらを予防するためにも、不必要な酸素投与は行わず、必要であるかのアセスメントが重要となります。

 

酸素中毒

高濃度の酸素が投与されることで活性酸素を生成し、気道および肺実質に障害をきたします。

 

memo:活性酸素

反応性の高い酸素由来分子で、老化やさまざまな疾患の発生に関連していると考えられている。

 

CO2ナルコーシス

慢性呼吸不全(特にⅡ型呼吸不全)の患者さんに酸素投与を行うことで、低酸素の刺激で維持されていた換気が抑制され、血中二酸化炭素濃度が増加し、意識障害をきたすことがあります。

 

主症状としては、意識障害高度の呼吸性アシドーシス(主な症状は、頭痛、集中力低下、錯乱、昏睡、羽ばたき振戦など)、自発呼吸の減弱があります。

 

慢性呼吸不全の患者さんには、高濃度の酸素投与は注意して行いましょう。

 

吸収性無気肺

普段、室内気を吸入しているときは、酸素が血中に拡散した後も肺胞内には窒素が残り、肺胞は虚脱しにくくなっています。しかし、高濃度酸素の吸入時は、窒素が酸素に入れ替わり、酸素の血中拡散後は肺胞内のガスがなくなるため、肺胞が虚脱して無気肺を生じることがあります。

 

皮膚障害

酸素療法に使用するそれぞれのデバイスと皮膚が触れる部位では、皮膚障害を起こす可能性があります。

 

特に、バンドやカニューレがかかる耳介部や、鼻カニューレの当たる鼻柱部、高流量鼻カニューレの触れる頬の突出部などは皮膚障害の好発部位となります。バンドやストラップは締めすぎないように注意し、必要であれば緩衝材を挟むなどして、皮膚障害の予防に努めましょう。

 

酸素療法中の口腔ケア

酸素療法では乾燥している医療用ガスを流すため、加湿している場合でも口腔内の乾燥を起こす場合があります。患者さんが口腔内の乾燥を訴えたり、明らかに口腔内が乾燥していたりする場合には、含嗽援助や口腔潤滑剤の使用により、乾燥予防に努めましょう。

 

マスクタイプのデバイスを使用している患者さんは、呼吸状態が不良であることが多いため、口腔ケアを行う際には口腔近くでマスクを保持できるよう看護師がそばで介助しましょう。呼吸困難の訴えやSpO2値、チアノーゼの有無など呼吸状態のアセスメントを行うと同時に、マスクを外す時間ができるだけ短くなるような援助が必要となります。

 

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本連載は株式会社照林社の提供により掲載しています。

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[出典] 『本当に大切なことが1冊でわかる 呼吸器』 編集/さいたま赤十字病院看護部/2021年3月刊行/ 照林社

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